【歴史ロマン・後編】ワイナリー前に佇む、マリアンネ王女が遺した教会
シュロス・ラインハルツハウゼンを訪れると、そのすぐ目の前に、美しく気高きゴシック様式の教会が目に入ります。これが、マリアンネ王女が急逝した息子ヨハネス・ウィリアムのために建てた教会です。
王室を追放され、どんなに周囲から冷ややかな目を向けられても不屈の精神で戦い続けた彼女が、生涯で最も深く傷つき、そして愛を注いだ場所でもあります。
1. 突然の悲劇:聖夜に旅立った最愛の息子
身分違いの恋の末に生まれた息子ヨハネスは、マリアンネにとって生きる希望そのものでした。周囲の反発を跳ね除け、このラインハルツハウゼン城で夫ロッスムと3人、堂々と幸せな家庭を築いていたのです。
しかし1861年、悲劇は突然訪れます。 愛する息子が、わずか12歳という若さで猩紅熱(しょうこうねつ)にかかり、クリスマスの日に息を引き取ってしまったのです。
どんなに巨万の富を持っていても、最愛の我が子の命だけは救えなかった。不屈の王女と呼ばれたマリアンネの絶望と哀しみは、計り知れないものでした。
2. 独自の信仰と、ラインガウ初の「プロテスタント教会」
悲しみのどん底に突き落とされたマリアンネは、息子の魂を慰めるため、そして自身と家族の終の住処(お墓)とするために、城の目の前の土地を寄付し、教会の建設を始めました。この教会は、最愛の息子の名をとって「聖マルクス教会(St. Markus)」と名付けられます。
実はこのヨハネス教会、歴史的にも非常に重要な意味を持っています。
当時、ラインガウ地域は伝統的にカトリックの信仰が非常に強い土地でした。しかし、オランダ王室出身のマリアンネはプロテスタント。彼女が建てたこの教会は、ラインガウ地域で初となるプロテスタントの教区教会となったのです。
ここでも彼女は、地域の古い慣習に縛られることなく、自身の信仰と愛する家族のための聖域を創り上げました。
3. 今も寄り添い眠る、家族の絆
教会の内部は、彼女が集めた美術コレクションの一部や、美しいステンドグラスで飾られ、厳かでどこか温かい光が差し込みます。
この教会の地下平原(クリプタ)には、12歳で旅立った息子ヨハネス、後に亡くなった夫ロッスム、そして1883年にその激動の生涯を閉じたマリアンネ自身が埋葬されています。
王室から籍を消され、一時はどこにも居場所がなかった3人は、今、ライン川を望むこの美しい教会の地で、誰にも邪魔されることなく永遠に寄り添って眠っているのです。
ワインの背景にある、もうひとつの物語
現在、この教会はラインハルツハウゼン城とともに、この地を訪れる人々を静かに迎え入れています。
マリアンネ王女が人生を賭けて開拓したブドウ畑から生まれるワイン。
その贅沢な1杯を口にする時、ワイナリーの前に聳えるこの教会も是非ご覧ください。
そこにあるのは、スキャンダルに彩られた破天荒な歴史だけではありません。我が子を想い、愛を貫き通した一人の「母親」の、切なくも気高い祈りの物語が今も息づいています。
(マリアンネ王女 晩年のポートレート)
マリアンネ王女が遺した愛と祈りの物語、いかがでしたでしょうか?
ただ美味しいだけでなく、これほどまでに濃密な歴史とドラマが隠されているのも、このワイナリーの大きな魅力です。そして肝心のワインの味わいの中にも、彼女の非凡なビジネス手腕やこだわりが今もそこかしこに息づいています。
次はいよいよ、彼女の情熱が育て上げた「シュロス・ラインハルツハウゼン」の素晴らしいワインたちについて、詳しくご紹介していきます。
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